違法海賊版サイトが電子書籍の売上を下げているのは本当なのか?


コミック単行本の売り上げで電子が紙を上回ったことが大きく報道されています。
媒体として紙から電子への流れは抗いようのないものですが、

>雑誌と単行本、紙と電子をあわせたコミック市場全体は、前年比2.8%減の4330億円。1995年のピーク時と比べて4分の3程度まで落ち込んでいる。

漫画自体が売れなくなっているそうです。
その部分で多くのマスコミが違法海賊版サイトの存在を理由の一つに上げています。

>コミックの売り上げが落ちている現状について、電子書籍や出版流通に詳しい専修大学の植村八潮教授(出版学)は、「一因には、違法海賊版サイトの存在がある。電子書籍の売り上げの約8割は漫画だが、読者は徐々に無料で読める場所へ流れてしまっている」と分析する。

何やら業界通の大学の先生もこのように分析されています。
確かに普通に考えると違法サイトで簡単に漫画を読まれちゃうと売上が減ってしまいそうなのは子供でも容易に想像できる話ですよね。

だがしかし。
インターネットの世界はさまざまな世の中の常識を覆してきた歴史もあるのです。
面白い論文がソーシャルメディアでも紹介されていました。
慶應義塾大学の田中辰雄さんの論文「書籍海賊版の売り上げへの影響:日本のマンガをケースとして」です。

【要旨】を引用させていただくと

インターネット上の書籍の海賊版が正規版の売上に与える影響を、日本の漫画を事例として分析した。海賊版の流布程度を個別タイトル単位で調査し、それが正規版の売上に与える影響をみるとともに、出版社が共同で行った海賊版ファイルの削除作業を自然実験として、差の差による分析も試みた。二つの分析方法の結果は一致しており、次の事実が確認できた。海賊版は現在連載中の作品、特にその最新版の売り上げを減少させる。その一方、すでに完結した作品の売り上げを増加させる。前者の効果は海賊版が正規版を置き換える通常の被害である。後者の効果は、海賊版が、宣伝されずに忘れさられている過去作品を読者に思い出させる効果(remind effect)と考えられる。

とのこと。

更にかいつまんで解釈すると

海賊版は連載中の最新の売上は低下させてたけど、完結作品の売上は増加させてたよ


とのこと。
もちろん、一考察をした論文だけで結論づけることはできませんし、さまざな条件の違いも考慮しなければなりません。もちろん、出版社における売上の大きな部分を連載中の新刊が占めているのも間違いないでしょう。

とはいえ、一時期、流行ったフリーミアム的な考え方自体は未だに出版社でも多く試みられていることも事実。

言うまでもないことですが、違法海賊版サイトの存在は許されるものではありません。


おそらく海賊版ではなく出版社自身がきちんと著作権許諾を行ったフリーミアム的なプラットフォームを持つべきなんだろうと思いました。